週末からなんとなく読み出した
Coriolanus(『コリオレイナス』)。読んでいるうちにどうしても劇そのものが見たくなったので、先月
Globe Theatreで始まったばかりの
Coriolanusの上演を見に行ってきました。
Coriolanusは王政から共和政に移行したばかりのローマを舞台としたシェイクスピアの晩年の作品で、悲劇のローマ将軍コリオレイナスをめぐる物語です。有名な四大悲劇に比べると主人公は影が薄く共感しにくい印象があり、そのせいで「衰退期の作品」と評され日本では上演されることも少ないようです。確かに、
Coriolanusはシェイクスピア悲劇にしては珍しくはっきりとした悪役がおらず、代わりに顔のない群衆がストーリー上重要な役割を担うという点において、決して万人受けするものではありませんが、民衆政治と権力のグレーな部分に取り組んでいる、奥が深い作品です。英国では
Coriolanusはシェイクスピア作品の中でも独特の重要な地位を築いていて、新聞などでの政治評論にもよく引用されます。
今回上演されているGlobe Theatreの
Coriolanusは各紙のレビューで評価が高かったので席が取りにくいとは想像していましたが、やはりウェブサイト経由だと夜の上演は殆ど座席がありません。しかもロンドンを発つまでに上演回数が数回しかありません。ダメもとで直接劇場に電話したところ、オンラインでは売っていない座席(£26)が確保できました。非常にラッキーでした。
ところでシェイクスピア劇は人それぞれ楽しみ方があると思いますが、私の場合なるべく作品そのものだけでなく、時代背景に興味があるのでいろいろと関連情報を調べながら読みます。今回は原作は定番のArden Edition、解説には
Spark Notesというものを読みました。おそらくこのSpark Notesというのは英国のA-Level(高校卒業試験)で英文学を専攻する高校生などが受験勉強に使うサイトだと思いますが、非常にわかりやすく一般読者にもおすすめです。
さて、Globe Theatreというのは、16世紀に建てられた旧Globe Theatreがあった場所のすぐ近くに1997年、ちょうど400年を経て再建された劇場です。現在住んでいる大学寮Stamford Street Apartmentsから歩いて10分程度の場所、テムズ沿いのSouth Bankにあります。
こちらはエントランスホール。ここまでは普通の劇場とあまり変わりません。
こちらが劇場の建物。エントランスホールとは別の独立した建物です。16世紀の建物を忠実に再現した屋外型の建築です。1666年のロンドン大火以来、初めて許可された藁葺き屋根の建物だそうです。
今回ここに来るのは初めてですが、レビューは読んでいてここが通常の劇場とは異なり外観だけでなく内部も16世紀のままで吹きさらしの板ベンチだということは聞いていました。そこで、迷わず貸クッション(£1)を借りました。貸しクッション以外にも簡易背もたれや毛布などを借りることができます。
こちらが今回予約した座席からの眺めです。座る場所によってチケットの値段は異なりますが、座席はすべて板ベンチのようです。座席を予約した場合は試しに一度座ってみて、必要と思えばクッションを借りてもよいかもしれません。
Globe Theatreの向かいにはStarbucksがあって、テイクアウトで持ち込むことも可能です。夜は冷えるので開演前にコーヒーなどの温かい飲み物を買っておくとよいかもしれません。
こちらはステージ。少しデコレーションがありますが、全体的には簡素です。大道具もありませんし、照明装置もうまく隠されていてどこにあるのかさえ見えません。中央奥に作り付けの大きな扉とバルコニーがあるのが特徴です。
ステージの天井。見ようによっては二条城などにある折上格天井に似ています。
劇場はステージを囲むような円形の三階建ての構造となっています。
そしてこちらがGlobe Theatreの最大の特徴である立ち見スペースです。まさに16世紀のシェイクスピアの時代のままです。下はコンクリートで上は空。雨が降っても傘はさせず、ずぶ濡れで見るしかないところも16世紀風です。
ここのチケットはわずか£5。高校生や大学生などが多かったです。非常に安いので魅力的ですが、さすがに3時間以上もここで立ち見する気はしませんでした。また夏とはいえロンドンの夜は冷えるので、立ち見席に限らずけっこう劇場内部は寒かったです。セーターを持ってきて正解でした。
同じ時間帯にイングランドvsスウェーデンの試合があったのですが、立ち見席を含めてほぼ満席でした。新聞のレビューの影響かどうかはわかりませんが、今回の上演が非常に人気があることは確かなようです。
上演中はもちろん撮影禁止なのですが、最後のカーテンコール(カーテンはないのですが)のときに1枚だけとりました。最後は観客席からのものすごい拍手で盛り上がりました。
今回の作品の印象としては、各紙のレビューにも書かれていましたが、コリオレイナス役のJonathan Cakeが少し違う気もしました。原作のイメージではもう少し威厳がある冷徹な人物のはずなのですが、今回はコリオレイナスのマザコン面が必要以上にコミカルに強調されていた気もします。複雑な感情がからむシーンなので単なる笑いの場面になってしまってはダメだと思うのですが・・・一方で、老練な友人メニーニアス役のRobin Soansは光っていました。原作のニュアンスにも忠実で、実際に共和政ローマにはこんな感じの人物がいたのではないかという気がしてきます。またレビューにはあまり書かれていませんでしたが、護民官コミニアス役のJoseph Marcellも好演だったと思います。
衣装も素晴らしく、全体としては非常によくできた作品と思いますので、ロンドン在住の方やロンドン観光にこられる方にもお勧めです。(ただし、シェイクスピア作品を英語で観劇する場合は、シェイクスピア英語でさらに台詞が早いので、事前に原作を読んでおいた方がよいと思います)