2006年 04月 27日
Distinctionを目指せ |
今週は大学関連の記事が多くなっていますが、今日も主にこれから社会科学系の大学院留学をされる方向けの内容です(ロースクールやMBAスクールはおそらく該当しません)。今回は、大学院の期末試験においてdistinction(優)をとる方法について書いてみたいと思います。
(キングス・カレッジのStrand Campus、テムズ側)
期末試験の解答にあたってはエッセイとは少し異なるスキルが求められていますが、概ね評価のポイントは同じです。簡単にまとめると、以下の通り:
A. Have you answered the question? (問題に的確に答えているか)
B. Have you done the reading? Have you demonstrated your knowledge and understanding of the subject? (指定文献をきちんと読んだか、シラバス全体に関する知識・理解は十分か)
C. Have you demonstrated an original argument? (独自の視点や論点を展開しているか)
まあここまでは言ってみれば当たり前のようにも見えますが、何人かの教官に直接、具体的な評価基準について聞いたところ、さらに以下の点が分かりました。
1. 上記AおよびBが完璧であっても、最高評価はmerit。
2. 上記AおよびBが完璧で、かつCにおいて採点者が特に優れていると認めたものについては、distinction。distinctionはオリジナリティーで決まるといってよい。
3. オリジナリティーが重要といっても、奇をてらった解答が望ましいと言うわけではなく、既存の考え方にとらわれない、本人の個性が表れる解答が高い評価につながる、ということ。
4. distinctionについては、絶対評価の要素が強い。つまり、「誰が見てもdistinction」という答案にしか、distinctionは与えない。
(Dept. of War Studiesの廊下から見た風景)
さて、次にdistinctionを狙う具体的な方法について考えてみたいと思います。
まず、AおよびBについて。キングス・カレッジの場合、各科目の担当教官が第一次採点者となります。(第二次採点者は学内の別の教官で、採点の結果、第一次採点と一定以上の隔たりがある場合、答案は外部採点者に送られることになります。なお、日本の多くの大学と同様、ブラインドマーキング方式、つまり個人の氏名が分からない形にて採点されます。)したがって、まず、文献や論文を読むだけでなく、講義での担当教官の発言や執筆した論文などを振り返って、教官の考え方の特徴(それぞれ異なる論理構成の方法)を理解しておくとよさそうです。私の場合、講義も全てICレコーダで録音してあるので、もう一度何を言っていたが、冒頭と結論部分だけ聞きなおそうかと思っています。これによって、AおよびBについては、少なくとも教官が読みやすい(評価しやすい)解答にすることができるのではないかと思います。
問題はCです。これは、実は日本人が苦手とするところではないでしょうか。どんなに勉強して完璧に解答しても、オリジナリティがないとせいぜいmerit。これでは当然ながら、外人連中には勝てません。ではどうすればよいか?出題内容も具体的だったり抽象的だったりと様々なので、一般論としてどうすればよい、という決定打はありません。そこで、あまり参考になるかは分かりませんが、私が今回使おうと思っているアプローチを二つほど紹介します。
一つ目は、最初から既存の「方法論」(methodology)を取り入れる方法です。例えば、ミシェル・フーコーの系譜学などです。英国の社会科学系の学問ではフーコーはとても有名ですが、どちらかというと学生は敬遠しがちです(私も最初はイヤでした)。実際、クラスメートでもフーコーを読んでいる人はあまりいません。無理に頭をひねって説得力がない結論をだすよりは、既成の方法論を解答に取り入れる方が逆に新鮮ではないかと思います。(ただし、やはり時間的制約があるので、すべての方法論が使えるわけではありません。例えば、テクスト分析は簡潔にまとめるのが難しいため、エッセイはともかく試験解答にはあまり向かないと思います)
4/29追記:(注:Dept. of War Studiesではフーコーやデリダそのものに関する授業や試験問題はおそらくありません。しかし、現代国際政治における安全保障の様々な問題について考察するに当たっては、フーコーの系譜学や権力論、ハーバーマスの批判理論、デリダのテクスト論、ギデンズの構造化理論など現代社会科学に深く影響を与えてきたものについては、メタ理論的に理解しておくことが役に立つといえます。)
二つ目は、「古い理論」(outdated theory)をあえて持ち出す、という方法です。例えば、最近の政治学や国際関係学では「構成主義」が流行っていますが、あえてそれには正面からは触れず、ちょっと古くて忘れられている理論を勝手に「再発見」します。私の場合、エッセイでは戦後の初期イギリス学派で最近忘れられがちなH・バターフィールドを持ち出して、無理やりポスト9/11に当てはめて、distinctionでした。おそらく、これは試験でも応用ができる方法ではないかと思います。
4/29追記:また、どうしてもdistinctionをsystematicに目指したい方には、そういうテーマの本もあります:
The Insider's Guide to Getting a First... or Avoiding a Third
これはLSEのWaterstone'sで見つけたものです。個人的にはどこまで参考になるかは分かりませんが、人によってはこういったハウツー本も役に立つのではないかと思います。
(ここからは、London Eyeやビッグ・ベンも見えます。手前はSomerset Houseの煙突)
さて最後に、試験全般に関する教官たちのコメントで興味深かったものです。
・試験の解答というものが厳しい時間的制約がある条件の中で行われるということは十分に理解している。したがって、エッセイのようなエレガントな表現や複雑な論理構成は求めていない。
・教科書を丸暗記したような解答は求めていない。クラスの仲間で集まって勉強するのは構わないが、みんなで模範解答を作るといったことはやめたほうがよい。以前、ある問題に対して多くの学生が同じような構成の解答を提出したので、該当答案を抜き出して、全員20点downgradeした(得点を引き下げた)ことがある。
・ここ(Dept. of War Studies)では、教科書の内容を記憶することよりも、自分の頭で考え、そして決断する力を育てることを重要だと考えている。ここにいる全員は、いずれ政策担当者や戦略立案者として、膨大な量の情報を抱えて、答えのない難しい問題に直面することになる。時間的な制約がある中で、情報を取捨選択してできる限りバランスの取れた分析を行った上で、最後の自分の考えを明確に伝えるという試験解答の技術も、そのときになって何かの役に立つだろう。
(以上、あくまで私が個人的に聞いた内容です。大学や専攻内容によって、異なる場合も考えられます。悪しからず。)
(キングス・カレッジのStrand Campus、テムズ側)
期末試験の解答にあたってはエッセイとは少し異なるスキルが求められていますが、概ね評価のポイントは同じです。簡単にまとめると、以下の通り:
A. Have you answered the question? (問題に的確に答えているか)
B. Have you done the reading? Have you demonstrated your knowledge and understanding of the subject? (指定文献をきちんと読んだか、シラバス全体に関する知識・理解は十分か)
C. Have you demonstrated an original argument? (独自の視点や論点を展開しているか)
まあここまでは言ってみれば当たり前のようにも見えますが、何人かの教官に直接、具体的な評価基準について聞いたところ、さらに以下の点が分かりました。
1. 上記AおよびBが完璧であっても、最高評価はmerit。
2. 上記AおよびBが完璧で、かつCにおいて採点者が特に優れていると認めたものについては、distinction。distinctionはオリジナリティーで決まるといってよい。
3. オリジナリティーが重要といっても、奇をてらった解答が望ましいと言うわけではなく、既存の考え方にとらわれない、本人の個性が表れる解答が高い評価につながる、ということ。
4. distinctionについては、絶対評価の要素が強い。つまり、「誰が見てもdistinction」という答案にしか、distinctionは与えない。
(Dept. of War Studiesの廊下から見た風景)
さて、次にdistinctionを狙う具体的な方法について考えてみたいと思います。
まず、AおよびBについて。キングス・カレッジの場合、各科目の担当教官が第一次採点者となります。(第二次採点者は学内の別の教官で、採点の結果、第一次採点と一定以上の隔たりがある場合、答案は外部採点者に送られることになります。なお、日本の多くの大学と同様、ブラインドマーキング方式、つまり個人の氏名が分からない形にて採点されます。)したがって、まず、文献や論文を読むだけでなく、講義での担当教官の発言や執筆した論文などを振り返って、教官の考え方の特徴(それぞれ異なる論理構成の方法)を理解しておくとよさそうです。私の場合、講義も全てICレコーダで録音してあるので、もう一度何を言っていたが、冒頭と結論部分だけ聞きなおそうかと思っています。これによって、AおよびBについては、少なくとも教官が読みやすい(評価しやすい)解答にすることができるのではないかと思います。
問題はCです。これは、実は日本人が苦手とするところではないでしょうか。どんなに勉強して完璧に解答しても、オリジナリティがないとせいぜいmerit。これでは当然ながら、外人連中には勝てません。ではどうすればよいか?出題内容も具体的だったり抽象的だったりと様々なので、一般論としてどうすればよい、という決定打はありません。そこで、あまり参考になるかは分かりませんが、私が今回使おうと思っているアプローチを二つほど紹介します。
一つ目は、最初から既存の「方法論」(methodology)を取り入れる方法です。例えば、ミシェル・フーコーの系譜学などです。英国の社会科学系の学問ではフーコーはとても有名ですが、どちらかというと学生は敬遠しがちです(私も最初はイヤでした)。実際、クラスメートでもフーコーを読んでいる人はあまりいません。無理に頭をひねって説得力がない結論をだすよりは、既成の方法論を解答に取り入れる方が逆に新鮮ではないかと思います。(ただし、やはり時間的制約があるので、すべての方法論が使えるわけではありません。例えば、テクスト分析は簡潔にまとめるのが難しいため、エッセイはともかく試験解答にはあまり向かないと思います)
4/29追記:(注:Dept. of War Studiesではフーコーやデリダそのものに関する授業や試験問題はおそらくありません。しかし、現代国際政治における安全保障の様々な問題について考察するに当たっては、フーコーの系譜学や権力論、ハーバーマスの批判理論、デリダのテクスト論、ギデンズの構造化理論など現代社会科学に深く影響を与えてきたものについては、メタ理論的に理解しておくことが役に立つといえます。)
二つ目は、「古い理論」(outdated theory)をあえて持ち出す、という方法です。例えば、最近の政治学や国際関係学では「構成主義」が流行っていますが、あえてそれには正面からは触れず、ちょっと古くて忘れられている理論を勝手に「再発見」します。私の場合、エッセイでは戦後の初期イギリス学派で最近忘れられがちなH・バターフィールドを持ち出して、無理やりポスト9/11に当てはめて、distinctionでした。おそらく、これは試験でも応用ができる方法ではないかと思います。
4/29追記:また、どうしてもdistinctionをsystematicに目指したい方には、そういうテーマの本もあります:
The Insider's Guide to Getting a First... or Avoiding a Third
これはLSEのWaterstone'sで見つけたものです。個人的にはどこまで参考になるかは分かりませんが、人によってはこういったハウツー本も役に立つのではないかと思います。
(ここからは、London Eyeやビッグ・ベンも見えます。手前はSomerset Houseの煙突)
さて最後に、試験全般に関する教官たちのコメントで興味深かったものです。
・試験の解答というものが厳しい時間的制約がある条件の中で行われるということは十分に理解している。したがって、エッセイのようなエレガントな表現や複雑な論理構成は求めていない。
・教科書を丸暗記したような解答は求めていない。クラスの仲間で集まって勉強するのは構わないが、みんなで模範解答を作るといったことはやめたほうがよい。以前、ある問題に対して多くの学生が同じような構成の解答を提出したので、該当答案を抜き出して、全員20点downgradeした(得点を引き下げた)ことがある。
・ここ(Dept. of War Studies)では、教科書の内容を記憶することよりも、自分の頭で考え、そして決断する力を育てることを重要だと考えている。ここにいる全員は、いずれ政策担当者や戦略立案者として、膨大な量の情報を抱えて、答えのない難しい問題に直面することになる。時間的な制約がある中で、情報を取捨選択してできる限りバランスの取れた分析を行った上で、最後の自分の考えを明確に伝えるという試験解答の技術も、そのときになって何かの役に立つだろう。
(以上、あくまで私が個人的に聞いた内容です。大学や専攻内容によって、異なる場合も考えられます。悪しからず。)
by snb03277
| 2006-04-27 08:03
| キングス・カレッジ